「ぼくはイエローで…」の次はおっさんとイギリス「ワイルドサイドをほっつき歩け」【本・感想】

2019年に発売され一躍人気の本となった「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」を書いたブレイディみかこさんが次に書いた本が今回ご紹介する「ワイルドサイドをほっつき歩け」です。

今回の登場人物は「おっさん」ばかり。そんなこの本を詳しくご紹介していきます。

こんな人におすすめ

  • おっさんに癒されたい方
  • 世代間の違いに直面している方
  • イギリスが直面している問題(EU離脱、NHS)について知りたい方

主役は「おっさん」

この本の主役は「おっさん」です。
え?おっさん?と思われるかもしれませんが、そのおっさんです。

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」ではブレイディみかこさんの息子さんをはじめとした、英国で暮らすティーンを通して多様性やエンパシーなどを取り上げていました。

一方で「ワイルドサイドをほっつき歩け」は若くても50代、平均で言うと60歳を超えるようなおっさんばかりが登場します。
そんな愛すべきおっさんたちの様々な悩みや問題、それに対して奮闘したり諦めたりする姿が描かれたエッセイ集になっています。

労働階級の愛すべきおっさんたち

この本で出てくるおっさんはブレイディみかこさんの近所の人々なのですが、みんな労働階級の人たちです。
イギリスではインドのカースト制のようにはっきりとした階級があるわけではありませんが、「階級」という考え方が根付いています。

その中でも古くから低い階級として存在するのが「労働階級」です。
これはいわゆるブルーカラーという方々ですね。

大工やタクシーの運転手など体を動かす系の仕事をしていて、夜はパブで酒を飲む、そんな感じの暮らしをしているおっさんです。
日本で言うと下町のおっさんみたいな感じでしょうか。

そのため若い世代からは時代遅れだと言われたり、新しいサービスに仕事を奪われたりしています。
ここら辺も日本のおっさんたちと同じだなぁなんて思いました。

どんどん肩身の狭くなるおっさんですが、それでもがんばって(?)生きています。
そんな人間臭い感じがブレイディみかこ節でとても愛らしく書かれています。

EU離脱とNHS

この本ではEU離脱の是非を問う国民投票の真っただ中から、EU離脱が決定して実際に離脱する直前までの時期の出来事が書かれています。
英国のEU離脱に関しては日本国内でもかなりニュースになっていたので皆さんご存じかと思いますが、実際に英国内ではどのようなことが起こっていたのかが生の声で書かれていると感じました。

先ほどまでのおっさんのゆるさとは別ですが、英国では激動の時代の真っただ中なんです。

英国のEU離脱には英国の誇りともいわれているNHSが大きく関係しています。
NHSというのは National Health Service (国民保健サービス)の略で、簡単に言うと英国では病院での治療費はタダ(一部少額の自己負担あり)という制度のことです。
この素晴らしい制度は保守党が政権を握った2010年から緊縮政策によって大きく揺らいでいます。

詳しい説明は省きますが、「EUにいるだけで大量にお金がかかっているので、EU離脱したらそのお金をNHSに回せるよ」というデマを多くの人が信じEU離脱が決まったとさえ言われています。

このような英国国内でのタイムリーな話題についてもわかりやすく書かれていました。

「階級」や「世代」「英国のいま」についての解説付き

本書は2章となっています。
と言ってもメインはおっさんのことがエッセイとして書かれている第1章なのですが、後半50ページくらいの第2章では「階級」「世代」「英国のいま」について用語解説を交えながらまとめられています。
「白人の労働階級がもっとも学業ができない事実」という項目には特に驚きでした。

クスっと笑える第1章とは違ったテイストですが、この50ページでより英国について知ることができました。

あと現在の英国でのお酒事情も書かれています。
これについては著者のブレイディみかこさんがお酒大好きだかららしいです。

まとめ

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」とはまた違った切り口ですが、相変わらずブレイディみかこさんの文章は読みやすく面白かったです。
みなさんもおっさんたちの日常で癒されたり、ちょっと英国事情について知れるこの本を読んでみてくださいね。